学校の長期にわたる休校で、教育現場で深刻となっているのが家庭環境による学習面の格差です。こうした格差の広がりなどを防ぐため、各地の自治体では分散登校など学校を再開させる模索を始めている。

東京 多摩市にある北諏訪小学校には500人を超える児童が在籍していますが、4月は入学式と始業式のあとは、一度も登校日を設けることができませんでした。

学校が今、危機感を持っているのが学習面の遅れです。ふだんの授業でタブレット端末を活用していたため、オンライン授業も検討しましたが端末がない家庭があったり、通信環境が異なったりするとして簡単に導入には踏み切れないといいます。

学校では4月10日から、課題をまとめたプリントなどを家庭向けに学校のホームページに公開してきましたが、家庭環境による学習面のばらつきに不安を感じているということです。

学校は、文部科学省の方針などを踏まえつつ、大型連休後に児童たちが週に1度、学年ごとに時間を定めて学校に通えるようにする分散登校を検討している。

この日も、その具体的な方法が話し合われ、感染防止策として、児童たちが極力机を共有しないように、色分けした紙を貼ったり、どの順番で登校させると、子どもたちが混み合うことなく、安全か議論したりしていた。

教務主任の男性教員は、「スタートが見えない中で学習計画を立てては崩してを繰り返しています。こうしている間にも子どもたちが学習だけでなく給食や集団生活がない中でどういう生活をしているのかとても心配です。オンラインが使えれば、今の状況であっても、いい方向で支援できるのですが家庭の状況が違うため、難しい部分もあります」と話していた。

学習格差 懸念する家庭は

学習面で、家庭に大きな負担がかかるなか、そこに応えるのが難しいところも少なくありません。

シングルマザーとして、子ども4人を育てている神奈川県の50代の女性。休校が続くなか、特に心配しているのが小学5年の息子の学習面です。

今年度から、小学5年では、英語が正式な教科となり、通知表の評価もつけられるようになります。しかし、学習する内容は4年生までの復習が中心で、5年生に習うはずの単元はまだできていないということです。

さらに、英語の学習には、発音などを学ぶため、タブレット端末などが使われますが、この家庭では、パソコンやタブレット端末はなくWi-Fiなど通信環境も整っていません。小学校で新たに始まったプログラミング教育も、まだ手付かずだということです。

母親は、生活のやりくりが厳しく、勉強まで十分見守ることは難しいといいます。いまは、これ以上、学習が遅れないよう、教育関係のNPOに、通信機器などを借りられるよう、依頼している。

母親は「各学校によって宿題の量が違っていたり、どんどん進んでいたり、全国で差がある気がして不安が募っています。特に英語やプログラミングは教科書を読むだけでは限界で教えることも難しくてもどかしいです。オンラインを活用しようとしても子どもたちが使う通信機器をそろえるだけでなく、コンテンツをそろえるのも大変です。なかなか難しいというのが正直な気持ちです。同じような教育環境が整えられて子どもが安心して学べる状況を一刻も早く作ってほしいです」と話している。

家庭の支援で学習進める子どもも

一方、同じ休校中であっても、家族から十分な支援をうけて、学習に取り組むことができる子どももいます。

都内に住む、小学1年生のりなちゃんは、この春、私立小学校に入学しましたが、新型コロナウイルスの影響で入学式以降は、学校に通えない日々が続いている。

学校からは宿題のほかに家庭での指導方法が保護者にメールで送られていて、母親のゆかさんは、仕事の合間をぬって、小学1年で学ぶ国語や算数などの問題を毎日、教えている。

この日も、りなちゃんは、この時期、学ぶ内容とされているひらがなや足し算、引き算などの問題をすらすら解いていた。

また、親が家事などで見られない時も民間企業が提供する算数ドリルをタブレットで勉強したり、テレビ電話を使って、海外に駐在していた祖父から外国語を教えてもらったりしていた。

りなちゃんに話を聞くと、「小学生になったのに友達にも会えなくてちょっと寂しい。お母さんの教え方はわかりやすいけど、時々自分で考えなきゃなとも思う。おじいちゃんとテレビ電話したりするのも楽しいけれど、本当は早く学校で、ジャングルジムとかで遊びたい」と話していた。

母親のゆかさんは「時間さえあれば子どもの特徴を見ながら一緒に勉強できることは貴重な経験で楽しいんですけど、正直、家事と仕事をしながら教えるのはかなり負担があります。休校期間が当初より延びていく中でいつまで続くのかなっているのが本音で、最初は楽しくやれたらと思ってましたがさすがに学力面への不安も感じ始めてきました。待ってるだけじゃ学力は延びないので参考書など実際に進め始めないとまずいなと考え始めています」と話していた。

“オンライン格差”も

文部科学省が、先月、全国の自治体を通じて行った調査では、休校中の学習支援の取り組みに自治体ごとに大きな差があることが明らかになりました。

すべての自治体が、教科書やプリントなど紙の教材を活用した家庭学習を実施していた一方で、
▽デジタル教材を活用した家庭学習をしている自治体は29%、
▽テレビ放送を活用した家庭学習をしているところは24%、
▽教育委員会などが作成した動画で、学習支援しているところは10%、
▽パソコンなどの端末を使って、対面でのオンライン指導に取り組んでいるところは5%にとどまっていた。

学習支援の取り組みも

経済的に苦しい家庭に対し、通信環境の整備などを無償で支援する取り組みも始まっている。

東京 杉並区のNPOは、今月から経済的に苦しいひとり親などの家庭に対して、パソコンやWi-Fiなど通信機器を無償で貸し出す取り組みを実施している。

さらに、オンライン上で同じ世代の子どもたちや講師とつながり、双方向でやり取りができる学習プログラムを利用できるということです。

すでに、40世帯以上の家庭から申し込みがあったということで、早速、通信機器を各家庭に向けて発送していた。

国や東京都などの一部自治体もオンライン教育に必要な費用を補正予算で組むなどの対策を進めていますが、NPO「カタリバ」の戸田寛明さんは、「休校となりコミュニケーションの機会が非常に少ない中、子どものストレスはたまり、保護者にとっても負荷が大きくなっています。インターネットにアクセスすることすらかなわない子どもたちが数多くいます。学びたくても学べないという声が多く、まさに格差が広がる岐路に立っているのではないでしょうか」と話している。

専門家「格差拡大 国はもっと助成を」

長引く休校による学習の問題について、教育格差に詳しい早稲田大学の松岡亮二准教授は「新型コロナが感染拡大する以前から子ども本人にはどうすることもできない教育格差の問題はあったが、公教育があることで格差の拡大を懸命に押しとどめていた。学校という標準化された教育機会が無くなったことで、より学校以外の時間が増え、この差が拡大していくと考えられる。在宅勤務ができる家庭では子どもが親と会話ができ、経済的に恵まれた家庭であればオンラインでの習い事ができるなど、期間が延びれば延びるほど格差は大きくなるとみられ、1日も早い学校再開に向けた準備が必要だ。教育現場は、オンライン授業などやれることをやる必要があるがそのためにも、国はもっと現場に整備のための助成をしていかなければならない」と指摘している。